春・・・桜が咲く季節
今日は、久しぶりのデートを、森林公園で楽しんでいる
長い桜のトンネルを、俺たちは並んで歩いた

「珪くん、桜って、どうしてこんなに綺麗だか知ってる?」

「・・・・ん?何でだろうな・・・」

「桜はね・・・、パーっと咲いて一気に満開になって・・・
それを惜しげもなく散らしてゆくから・・・綺麗なんだよ」

「儚いから美しい・・・そういう意味か・・・」

「うん・・・、私ね、満開に咲き誇った桜より
ハラハラと散ってゆく様が・・・好きだな・・・」

は少しセンチメンタルな気分なんだろうか・・・
風が揺れるたびに舞っている桜吹雪をため息混じりに見上げている

・・・何かあったのか・・?」
「何かって・・・?」
「いつものおまえらしくも無く・・・詩人だなって思って」

俺たちが高校を卒業して、もう5年が経っている
卒業式で告白をした俺・・・
それに応えてくれた

けれど、それぞれに進む道が違っていて
付き合ってはいるものの、殆ど会えない・・・
今日のデートも、3ヶ月ぶりだ

「別に何も無いけど・・・」
「けど・・?」
「散ってゆく桜・・・綺麗だなーってそう思っただけ」


桜のトンネルを抜け、芝生広場まで来て
俺たちは「いつもの木」のしたに、シートを敷いて腰をおろした
木々の間から、春の日差しが柔らかく降り注いでいた

「今日は久しぶりに会えるって思って、朝早く起きてお弁当作ったんだ」

はそう言うと、手に持った袋から大事そうに重箱を取り出した

「何だそれ・・・そんなに作ってきたのか?」
「うん、珪くんは一人だとたいした物食べてないでしょう
だから、お野菜の煮物とか、いろいろ作ってきたよ」

俺が蓋を開けると、そこには、色とりどりのおかずが並んでいて
日頃単調な食生活を強いられている俺は、素直に舌鼓をうった

「美味い・・・、やっぱり、の作ったもの・・・うまい」
「そう?そう言ってもらえると嬉しい」
「おまえも仕事で忙しいのに・・・サンキュ・・本当に」
「お礼なんて・・別にいらないよ
私が珪くんに食べて欲しくて・・・それだけだから」

そう言うと、はにっこりと笑う
けれど、その笑顔の向こう側に僅かな陰があることを俺は見逃さなかった

「言いたい事・・・あるんだろ?」
「珪くん・・・」
「解かる・・・俺にだって
おまえと付き合ってもう5年だろ・・・そのくらい解かる・・」
「別に・・・・言いたい事なんて・・・」

はそう呟くと、俺から視線を外し俯いた
少しの沈黙
その間にが何を考えていたのか・・・それは俺には解からなかった


「珠美ちゃん、覚えてる?」
「・・・・ん?紺野珠美?はば学の・・・確かバスケのマネージャー・・・だったな」

「うん・・・、私、仲良かったんだけど・・・、来月結婚するって連絡貰ったんだ」
「・・・そうなのか」

「うん・・・鈴鹿くんと・・
アメリカで暮らすからもう当分会えないし、結婚式来てねって」
「・・・・」

「奈津実ちゃんは覚えてる?」
「・・・それもはば学・・・藤井奈津実か?」

「・・・8月に子供が生まれるって・・・、今は姫条奈津実さんだけどね」
「そうか・・・」

「もう23歳だもん、そういう話多くて・・
お祝いにお金いっぱいかかっちゃって、寿貧乏って感じ」

はそう言うと、無理をしたように笑った
が言いたい事は・・・俺にも解かっている
それは、俺たちの間に流れた時間が物語る

5年
決して短くは無い時間
その間に、何も無かったわけではない
お互いを求め合い
そしてぶつかり合い
今も、ずっと傍にいる

俺にとってはそれが当たり前で
一生変わらない事
がいてくれる事は
これから先もずっと変わらない事
けれど
の中には
答えを求めている
寂しそうな「の本音」があることを感じた


俺たちは言葉少ないまま弁当を食べ終えて
午後の日差しの中、芝生広場で戯れている子供達の様子を眺めていた

「珪くん、お昼寝するんでしょ?」
「・・・ん?・・ああ、昨夜も仕事から戻るの遅かったから・・・ちょっと眠い」
「いいよ・・・、膝枕貸してあげる」

「おまえも今朝・・・早かったんだろ・・弁当で・・・
だから、一緒に眠ればいいだろ・・・昔みたいに
俺の腕枕貸す・・・けど」
「うん・・・、じゃ、腕枕借りようかな・・・」

俺たちは、シートの上で横になって天の青を見つめていた
暖かな春の日
俺は瞼を閉じ・・程なくしてまどろみの中へ落ちて行った


「珪くん・・・寝ちゃったね
私ね・・・、珪くんの事・・・好きだよ
もう5年・・
そんなこと感じないくらい
ずっと好きなままで・・・
気持ちが変わらなくて
ううん・・・変わらないどころじゃなくて
どんどん、好きになってゆくの

でも
珪くんと一緒にいる時間全然無くて
・・・不安だよ
このまま・・・珪くんを好きでいても良いのかなって・・・
私の気持ちは届いているのかなって・・・

いつまでも・・・このままなのかと思うと
怖いんだ・・・
珪くんのお仕事、本当に忙しくて
私と会う時間作れない事も・・・・頭では解かってるの
でも・・・寂しい
だけど・・・言えない
私、我侭言って嫌われたく・・・ないんだもん」


の独り言・・・俺の耳に入ってきて
俺は眠りの淵から引戻された
でも
独白された内容に
すぐに答える事が出来なくて
俺は、眠ったふりをしていた


「ねぇ・・・・珪くん
私と離ればなれになっても・・・珪くんは平気なのかな・・・
きっと・・・平気だよね
今だって・・・3ヶ月も会えないままで・・・
会えない間は・・・メールだけのやり取りだもん
きっと・・・あの頃の気持ちはもう無いんだよね・・・」

の言葉が進むにつれ、俺は放っておく事が出来なくなった

「おまえ・・・、そんなこと考えてたのか?」
「珪・・・くん、起きてたの?」

「・・・おまえの言葉、聞いてた」
「・・・」

「俺に言いたい事・・・言えなかったんだな・・」
「そんな・・・言いたい事なんて」

「今の言葉・・・言えなかった本音だろ・・・?」
「・・・」

俺は、の頬をそっと撫ぜて、身体を引き寄せ抱きしめた

「・・・珪・・くん」
「俺が傍にいたいのは・・・だけだ」
「・・うん」

「人それぞれ・・・進んでゆく速度が違う
紺野も、藤井も、それぞれ幸せそうだけど
それは、あいつらの人生だろ?
俺は・・・おまえを待たせてる
おまえは・・・、もう待つのが嫌だって事なのか・・・?」

「違う・・、そんなんじゃない!」
「3ヶ月・・会えなくて・・・、寂しかったのは俺も・・だ」

「・・・そうなの?」
「・・当たり前だろ、おまえが恋しくて、眠れない夜だってある」

「珪くん・・・」
「・・・おまえの欲しい言葉
必ず・・・・伝えるから
俺を・・信じて、もう少し・・待っていて欲しい」
「うん・・・」

は、その瞳に涙を滲ませて
俺を真っ直ぐに見つめた
俺は・・・その愛しい人を
そっと抱きしめた
いつまでも離さない
俺の気持ちが伝わるように・・・


久しぶりのデートは、何をするわけでもなく、ただただ時間が過ぎてゆき
俺たちはレジャーシートをたたみ帰路につく
日差しが傾いた公園は、どこか寂しそうに人の気配を消していた
芝生広場から、また、桜並木を抜けてゆく
桜並木は、少し強くなった風のせいで
ハラハラと桜吹雪を舞わせていた

「珪くん・・・本当に綺麗だね・・・桜」
「・・・
「え?」

桜を見上げたの髪に、幾つもの桜の精が舞い降りている
俺はその花びらをそっとはらう

「・・ありがとう、珪くん」
・・・、来年もこの桜・・観に来ような」
「うん・・・」
「再来年も・・その次の年も・・・10年後も」
「・・・珪くん」

俺はの肩を抱き寄せて、その唇にそっと口付けた
淡いろの桜の花びらが
俺たちの上に舞い散る
誰もいない桜並木で・・・
俺たちは・・・抱き合った
その温もりを・・・忘れないように・・ずっと・・忘れないように

END



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